重水素(D)は水素(H)の安定同位体であり、既存医薬品代謝部位のC-H結合をC-D結合に変換した重医薬品は、同位体効果による活性持続時間の延長や副作用の低減を実現できるため注目されています。しかし、重医薬品を合成するための重水素化原料の調製には、高価な試薬を用いる必要があります。我々は、その一つである重水酸化ナトリウム重水溶液の簡便かつ安価な用時調製法を開発するとともに、望む位置が一つだけ重水素化されたトランススチルベン類を一つのフラスコ内で高収率かつ高重水素化率で合成する方法を確立しました。この重水素化トランススチルベン類を原料として、望みの位置に重水素原子を導入した生物活性物質の合成にも成功しました。本手法は応用性が高く、多様な重医薬品の開発に展開されることが期待され、受賞に至りました。