StoryZ

阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”
その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
それぞれのStoryをお楽しみください。

組織に頼らず生きる道を

大阪府の出身だが、上京して一橋大学の社会学部、社会学研究科で学んだ。卒業後は東京で就職し、テレビ番組の制作に携わる。「そんな毎日のなかで、組織に頼るのでなく自分で進められる仕事をしたいと考え、司法試験を目指すようになりました」。法学部の出身でなくても、弁護士になる道はある。一念発起した室谷さんは実家のある関西に戻り、大阪大学の高等司法研究科(法科大学院)に入学した。

法律の面白さ、奥深さを知る

法学部出身の学生が多いなかで、「それまで法律について学んだことが全くなかったので、最初は勉強の仕方も分かりませんでしたが、しだいに面白いと思えるようになりました」。印象に残っている先生の一人に「著作権法の茶園成樹教授。法制度の骨組みから頭に入れていく方法が特徴的でした。先生方の考え方は深く、大事なことを多く学べました。それらを実務にフィードバックすることを今も心がけています」

他大学で学んできた室谷さんの目に、大阪大学の法科大学院生はどう映ったか。「奇をわないコツコツ型。地味だけれど、着実に成し遂げるのが阪大らしさだと思います」。大阪大学とのネットワークは今も大事にしている。ちなみに大阪大学法科大学院は、弁護士である夫人と出会った思い出深い場所でもある。

「仕方ない」と納得したくない

ドラマの法律監修では、核心となる事実を法律的に抽出して組み立てていく実務法曹のあり方とは逆に、物語を成立させるためにどんな事実が必要かを考えていく。プロット作りの段階から脚本家、プロデューサーとディスカッションに加わり、時には設定変更を提案することもある。「印象に残っているのは『リーガルハイ』。訴状、判決文などの小道具を作るなど大変でしたが、脚本家さんがどんな弁護士が描きたいかという『世界観』に触れることができ、楽しかったですね」。ドラマに携わるようになってから、普段の弁護においても、個々の事実をより大切に考えるようになったという。2019年1月から始まった「イノセンス 冤罪弁護士」(日本テレビ)でも法律監修を担当する。

弁護士として関わった事件の中で話題になったものとして、最高裁での性同一性障害の「父子」認定がある。東京家裁も東京高裁も、性転換により男性となった人が「父親」となることを認めなかったが、最高裁で逆転勝訴となった。

「弁護士として、これからも心に響く問題があれば関わりたい。関われる立場にあることを、ありがたいと思っています」。この訴訟では社会の雰囲気を分析しつつ冷静な戦略を練ったが、根底には「何としてもやり抜こう」という熱い思いがあった。

弁護団訴訟に関しては「国家や企業への訴訟は、ほとんどが負け。でも『仕方ない』で気持ちを抑え込みたくない」。正義を固定的に考えてはならず、つねに反芻して捉え直す必要がある、と自戒しつつ、「社会の中で、つねにこぼれ落ちる人たちがいます。その人たちのために闘う気持ちを持ち続けたい」

しなやかに 迎合せず

阪大の後輩に贈る言葉は「自分の枠を設けてしまわず、いろいろなことに触れて欲しい」。特に弁護士を目指す人には「自分のやりたい仕事、なりたい弁護士像をもって進んでいけば、きっとうまくいきます。資格に甘んじてはいけない。信条、矜持をもち続けて、実践して欲しい」と語る。

弁護士志望者が減ってきているが、信念をもって、また、専門性を磨いていけば「その頑張りを見ている人はいるし、また、助けを求める人や組織の役に立てるようになります」。自ら開設した法律事務所は企業法務、知的財産法関連、個人法務など幅広い業務を取り扱っている。

好きな言葉は西郷隆盛や坂口安吾が好んだ「行雲流水」。「時代の中でしなやかに、でも安易に流されず、迎合せず」生きていきたい、と語ってくれた。

●室谷光一郎(むろたに こういちろう)氏

2001年一橋大学社会学研究科修了。同年より05年3月までテレビ、出版関係の会社に勤務。08年3月大阪大学大学院高等司法研究科修了、同年司法試験合格。最高裁判所司法修習生を経て09年より弁護士登録(大阪弁護士会)、14年室谷総合法律事務所開設。

(本記事の内容は、2019年2月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

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